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第1章 ねこだって名前はある

  我が輩は「にこ」である。まず、言っておきたいことがある。猫が話すときに自分のことを「我が輩」というのは、猫に立派なひげがあるからである。威張っているように思われるかもしれないが、人間に対して話をするときには多少の威厳が必要なのだ。そうでなければ、同じく人間の近くに住んでいるネズミどもに軽く見られる恐れがある。また、人間に餌をもらっていても猫族の誇りは失いたくない気持ちもある。
  我が輩は、元は野良であった。正確に言えば、母親は人に飼われていたのだが、棄てられた。棄てた理由は聞いていない。大方、ノミがたかったか、皮膚病になったかで飼うのが嫌になったんだろう。その人間は、母をわざわざ、知らない土地の橋の下に連れて行って棄てた。煮干しを30匹ばかり置いて去ったと母はいっていた。棄てた人間にも多少のうしろめたさもあったのだろうか。季節は秋で段々と寒くなるころだ。母は、近所の雄の飼い猫と仲良くなり、勝手に、農家の納屋に入り込んで、翌年の春に4匹の兄弟姉妹を生んだ。

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